コンポ・ステラ

草原を歩いて来た。
足の裏でひんやりと
若草が跳ね返る。
空に咲き乱れる星は
蒼白い月の飛沫をうけて
ちらちらとさざめき輝いている。
このまま歩き続けるのだろうか。
だけど、自分の足跡が見当たらない。
月の光でくっきり浮かび上がる草陰には
足跡は残っていない。
どれだけ歩いても
自分の足跡は残らないのだと
ぼんやり思う。
草たちはひっそりと
眠ったふりをしている。
この草原には
たったひとつの道しるべもない。

ああ、それにしても、天空の賑やかさはどうだろう。
自分の小さな足の面積だけを頼りに
思い切り体を捩って空を見上げる。
そして思い切って、私は空に飛び込んだ。
星たちは、驚いてくすくすと笑っていたが、
どんどん遠ざかり、
やがて見えなくなった。

私はぶくぶくと空に沈んでゆく。
五感を失って
夢中で自分の泡に溺れていく。

その時、私に語りかける瞳があった。

僕は、君の三千年の歴史を知っているよ。

喜びの色、悲しみの色、若草の色。
怒りの色、安らぎの色、木漏れ日の色。
絶望のそして夢の色、瑪瑙の祭壇の、海の底の宮殿の色。
生と死の祈りの色、
地の静寂と躍動の、そして反復の色。
まだ見たことのない、
これからも見ることのない、
自分の目よりも懐かしい色をした瞳は語りかける。

僕は、君の三千年の歴史を知っているよ。
草原の草たちも、君の歩いて来た道を知っているよ。

言葉はしずくになって
私の体に吸い込まれた、とたん、
私はさっきの草原の
もとの所に降り立った。

今、草原には、無数の星が降り始めた。